国際交流基金マドリード日本文化センターでは、2010年の事務所開設以来、日本語・日本語教育普及事業に加えて、日本語教師を支援する取り組みを続けてきました。
先の6月には、スペイン日本語教師会及びサラマンカ大学と連携し「第4回スペイン日本語教師会シンポジウム‐成長する教師‐」を開催し、スペイン各地のみならず、隣国のポルトガル、日本、その他の外国からも参加いただきました。今回は、同シンポジウムの基調講演講師として招へいしたコミュニカ学院、奥田純子学院長に、スペイン、スペイン日本語教師会の印象や、シンポジウムに掛けた思いについて、当センター所属の近藤日本語教育アドバイザーとの対談を通して、語っていただきました。

【講師プロフィール】
奥田純子:1970年代後半より、外交官、日本研究者、ビジネス関係者等への日本語教育を開始。1988年神戸市にコミュニカ学院設立、学院長就任、現在に至る。活動領域:異文化間教育としての日本語教育、教師教育、異文化コミュニケーション教育、ビジネス日本語教育等。
 
近藤: スペインに来られたのは初めてですか。
 
奥田: はい。
 
近藤: どのような印象を持たれましたか。
 
奥田: 「すばらしい!」、人が歴史の中に生きている、過去と今がつながっている、ということを、街並みが見せてくれますね。一番初めに訪れた町がサラマンカでよかったです。素晴らしい文化を繋いできた町、スペインらしさが感じられました。
 
近藤: 今回、スペイン日本語教師会のシンポに参加されてどのような感想を持たれましたか。全体的な印象、そこで会われた方々についての印象など感想をお聞かせいただけますか。
 
奥田: 日本語教師などの別はなく、「あぁ、ここで仲間に会えたな」という印象を受けました。ふっと仲間意識を持てる方たちというか…。そこがスペイン日本語教師会のいいところだと感じました。その「大学で、語学学校で教えているとか、教えてなくても興味があるとか、だれでもそういう人が入れるんですよ。でそういうのを作りました」という空気がすごくよくわかりました。だから、日本語・日本語教育を媒介としてつながっていくコミュニティの中にふっと入れてもらえたので、非常にリラックスして参加できました。あの、サラマンカの建物がどこまで大学でどこからが民家なのか分からないように垣根がなくてね、すごく心地よかったです。
 
 
近藤:今回のシンポでの講演、ワークショップのテーマが「実践研究」だったんですが、どういう思いでスペインにいらっしゃって、どういうことを、この「仲間」に伝えたいと思われたのかお聞かせいただけますか。
 
奥田: タイトルが「成長する教師」、それで実践研究が大きなテーマだったんですが、「実践研究」を勧めるというよりも、「実践」というものをどうやって共有化するかということを始まりとして、共有化するということは話題を提供する側と、それを聞く・参加する側がいて、その両方にとって大切、必要にしなければいけない知識・能力・態度っていうのを扱おうと思ったんです。それに、自分の教育観・学習感を共有化するのも大事だなって思っていました。
非常に難しいなと思っていたのは、私の講演とワークショップの次の日が(口頭・ポスター)発表だったんですね。つまり、私が言ったことによって、二日目が大きく影響されるわけです。「実践研究とはこうあるべき」と言ってしまうと発表しにくい人が出てきてしまうかもしれない。それではエンカレッジしたことにはなりません。もっと進めていきたいという気になってもらいたいわけですから、で、発表する人も、聞く・参加する人も、明日意味ある共有をするための素材とコツ・スキルを一日目に提供できたら、発表の参加が深まるかなというのを念頭において、講演とワークを用意しました。ですから実際にシンポで発表した人は2本目を、聞いた人には1本目をやってみようと思ってもらうことが大きな狙いでしたね。
 
近藤: なるほど、発表する側としては今回発表する前に心構えとか態度とかそういった話を伺ったことで発表しやすかった部分もあったと思います。そして特に、聞く方の心構え、聞くスキルっていうのが非常に重要だなと感じました。
 
奥田: そう。聞いている人たちの能力が高いと発表している人はもっといいことが言える。
 
近藤: 今回は聞き手にそういった心構えができていたので、建設的に話が進んだと思います。
 
奥田: それと、私は基調講演、ワークショップ、発表者へのコメントっていうのが一つのパッケージだと思っていたんですが、時間は限られていましたが、何とか大体みんな(発表者)にコメント、お話できてよかったと思っています。
 
近藤: 今回発表者がとても多かったんですけど、発表者をエンカレッジしてくださって、非常にありがたかったと思います。
 
奥田: 「今度、書いたもの見てください」っていうのもあって、今後のつながりがまたできたかなと思いました。
 
近藤: 最後に、スペイン・ポルトガルの日本語教師をサポートしている私たちに、今後についてのメッセージをいただければと思います。
 
奥田: 今回のシンポの企画、(近藤さんが)オンラインで発表者をサポートされていたのはすばらしかったし、それが今回のシンポの成果にもつながったと思いますので、それがプチっと切れないように、継続的に何かやっていくっていうのが大事かなと思います。だから企画をその時だけのものにしない、後任の方につなげていく、もしくは一緒にやっていくことが重要で、そうやってマドリードの風土が作られていくんじゃないでしょうか。
 
近藤: そうですね、私たちも2,3年で(ポストを)代わらなくちゃいけないけれど、継続的に何かやっていくという視点が大事だなって思いました。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・
 
お話を聞かせてくださった奥田講師、どうもありがとうございました。
 
2017年6月26日 国際交流基金マドリード日本文化センター