Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM] Photo: Ryuichi Maruo (YCAM)

Naves Mataderoは国際交流基マドリード日本文化センターとVeranos de la Villaの協力のもと、日本を代表する前衛アーティスト、且つ振付家でもある、梅田宏明氏の公演を行う。今回は、テクノロジーとダンスを融合させた、自身のキャリアの集大成ともいえる作品、Split Flow 及びHolistic Strataを7月12日、13日、14日の三日間にわたっり、上演する。

日時:7月12・13・14日21:00-
上演時間:60分
会場:Naves Matadero - Centro internacional de Artes Vivas - Nave 11 Fernando Arrabalホール
入場料:11.25~15€。入場券購入についてはこちらのサイトをご覧ください。
 
梅田宏明(うめだ・ひろあき)
振付家、ダンサー、ビジュアル・アーティスト。
2000年に、カンパニー「S20」設立。以後、そのテクノロジーを駆使しながらも身体強度の高い作品が評価され、欧州、北米、南米、アジア、中東、アフリカ、オーストラリアの各都市で公演する。視覚芸術と身体芸術の境界を越えるそのダンス作品は、デジタル・アートからの強い影響と共に創作へのホリスティック(全体的)なアプローチに特徴があり、身体のみならず、光、音、映像、そしてなにより 時間と空間を振付可能な一要素として捉えている。「時間と空間を振付ける」というクリエイションの可能性を追究し、現在では振付家・ダンサーとしてだけでなく、作曲家、照明デザイナー、舞台美術家、ビジュアル・アーティストとしても活動の裾野を広げている。
 
梅田のシグネチャー・スタイルとして認知されるようになった、デジタル・イメージ、ミニマル・サウンドスケープ、そして極めて雄弁な身体を美しく統合するソロ新作群——『Adapting for Distortion』(2008 年)、『Haptic』(2008 年)、『Holistic Strata』(2011 年)、『split flow』(2013 年)——が、旧作と共に定期的に世界の主要フェスティバルや主要劇場に招聘されるようになる。
 
「観客に未知の身体感覚を与えたい」という作家の意図に端を発して、2010年頃からは、錯視と身体的没入感覚にフォーカスしたインスタレーション作品を発表しはじめる。身体感覚を揺さぶるビジュアル・アートの数々と、ジャンル越境的な振付作品により、2010 年には国際的メディアアートの祭典アルスエレクトロニカ (リンツ)のデジタルミュージック・サウンドアート部門で入賞する。
今回は初のマドリード訪問でSplit Flow 及びHolistic Strataの2作品を続けて三日間披露する。
 
 
SPLIT FLOW
 
振付・出演: 梅田宏明
サウンド・ライティングデザイン: S20
製作: S20
共同製作: Théâtre Louis Aragon, scène conventionnée danse de Tremblay-en-France, Stereolux – Nantes
スペイン初公演
  
「分断された流れ」という意味の本作では、動的状態と静的状態、二つの異なる 状況から生まれる二重の現実を見せることをテーマに取る。オランダ(ア インドホーヴェン)のVan Abbenmuseumにより委託制作された同題のインスタレーションでは、高輝度レーザー機器を使用して、青色、赤色、緑色(光の三原色)を同時に高速投射することで床に複数の白色光線を可視化。鑑賞者がその静的(スタティック)な光の空間を通りぬけることで、白い光は瞬間的に三色に分断される。つまり空間への身体による動的(ダイナミック)な干渉により、初めて異なる現実が出現することを提示してみせた。梅田はこのインスタレーションのコンセプトを、同題のソロダンス作品にも採用しつつ、新たなダンス言語の構築に挑む。速度、強度、スケールの異なる多種多様 な小さなムーヴメントを全身に無数に埋めこみながらも、同時に、冒頭から終わりまで決して途切れることのない、なめらかなダンスフローを表現してみせる。つまり本作では、微視的な情報量に満たされた「分断された現実」と、ゆったりとしたマクロ時間が流れる「継続する現実」の、二重のリアリティが同時に体感可能である。さらに観客は、梅田の身体という豊かな媒体物を介して、空間全体が、水、油、空気、といった異なる質量のメディアによって構成されているような錯覚を覚える。豊穣な動きによってのみ可視化される現実があることを『split flow』は見せてくれる。スペインでは初公演となる。
 
HOLISTIC STRATA

山口情報芸術センター[YCAM]委嘱作品
振付・出演: 梅田宏明
イメージ・ディレクション: S20
イメージ・プログラミング: S20、比嘉了、大西義人
システム・デザイン: 比嘉了、大西義人
サウンド・デザイン: 濵哲史 (YCAM) 、S20
ライティング・デザイン: 高原文江 (YCAM) 、S20
衣裳: 片山涼子
センシング・エンジニア: 大西義人、大脇理智 (YCAM)
ビデオ・エンジニア: 大脇理智 (YCAM)
テクニカル・コーディネーション: 岩田拓朗 (YCAM)
 
脱人間中心主義を標榜する梅田宏明の作品群では、身体も光も音も、あらゆるものは等価な物質として存在する。本作ではそれら構成物質のすべてを、高抽象度なワンピクセルの点に分解。舞台上で展開される全運動を最小単位の点に還元することで、あらゆる運動体の背景に通底するであろう「動きの原理」を追究していく。稲妻、雨水、竜巻など自然界に存在する様々な非線形現象を連想させる粒子群のムーブメントは、ときに人体センサーを装着した梅田の身体言語に連動し、その構造を漸次的に変えていく。ピクセル群の渦中に立つ梅田の身体は否応なく自然環境に影響を受けると同時に、彼の身体部位の動きひとつが世界全体に影響を与えていく。「個体の層が全体の層に影響を与え、全体の層が個体の層を生成する」。世界の決定因子は「個体と全体の双方に備わる」という作家の哲学に支えられ、あらゆる運動体が超越的に組織化されたホリスティックな生命体が誕生する。動くものすべてが無数のピクセルにより 表現される美しい調和世界に身を浸すことで、観客はエモーション(感情)以前のセンセーション(感覚)を覚醒されることになる。
 
情報元Naves Matadero